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​毒島と長内


(1:1:0)上演時間20分

毒島
長内の前の席、面倒臭がりだけどツッコミ気質の苦労人、長内とは幼馴染。最後に先生の兼ね役があります。
また、毒島のセリフにはほとんど感嘆符をつけていません。演者様のお好きなテンションでツッコんでください。

長内

毒島の後ろの席、ガサツ、マイペース、毒島とは幼馴染。
最後にめちゃくちゃ長ゼリがあります。ファイト!


 

(朝、教室)

長内:

ん……ふわぁ〜……眠……。

毒島:

はよーす。長内、朝からカバみたいなアクビしてんなよ。

 

長内:

ブッスーおは〜。ねね、カバの汗って赤色で、日焼け止めの効果があるんだって。偉くない?なりてーわカバに。

 

毒島:

カバは体毛がなくて肌も超弱いからな。自衛のためにそうなってんだよ。あとそのあだ名やめろ。

長内:

あ、ブッスーも先週のアフリカ探検番組見たっしょ?汗ってか保湿ローションみたいな感じなんだよね〜。
つか体毛無いとか超裏山なんですけど〜、肌弱いのはウチも一緒だし完全に上位互換じゃんカバ。やっぱなりてー!

 

毒島:

髪の毛もないぞ。つまり長内はスキンヘッドで赤いローションを分泌するJKになりたいってことか。あとそのあだ名やめろ。


長内:

体質だけ持ってくると完全にバケモンじゃん、なるならカバそのものになりたいんですけど。

 

毒島:

そのあだ名やめろ。

 

長内:

今言ってなかったじゃん。

 

毒島:

キャッチボールしてるようであだ名についてはしっかりスルー決め込まれたからな。

 

長内:

いいじゃんブッスー。妻夫木だってブッキーなんだし。

 

毒島:

先週はガッキーで今日はブッキーか。いーんだよそいつらは、他に連想するものがないから。でもブッスーはダメだろ。

 

長内:

えー、別にブッスー可愛いからいーじゃん、ブスカワってやつ?

 

毒島:

それ「ブスだけど可愛い」って意味だからな。あと俺は可愛くない。

 

長内:

なんで?可愛く無く無くない?

 

毒島:

お前の悪い癖だぞ、何にでも「可愛い」って言葉使うの。

こないだ教頭がくしゃみと同時に屁かました時にも「可愛い」って言ってたろ。

 

長内:

ガチ可愛かった。

 

毒島:

教頭のくしゃみ屁ぇと同列にされた俺の顔面と自尊心に謝れ。ブッスーより傷つく。

 

長内:

ブッスーの顔が教頭のオナラみたいで可愛いって言ってるわけじゃないのに。

 

毒島:

いや、もういい。その件について改めて言葉にするな。いいからあだ名やめろ。


長内:

えぇ〜……ん〜……
じゃあブス?


毒島:

お前タイムリープしてね?

長内:

あ、先週そのまま金ロー(金曜ロードショー)みたっしょ?

毒島:

マジで今までの時間返せ。何だよ「じゃあ」って、フックがストレートになってんだよ。

長内:

冗談だって〜。ん〜……したらジーマーとか?

毒島:

もうそれでいい。ホームルームすら始まってないのにどっと疲れた。

長内:

あっ!?てかそうじゃん!ウチ、ジママに相談したいことあったのに!何でこんな話してんの!?

毒島:

ツッコまねーぞ色々と。なんだ相談って、どうしたらカバになれるかとかか?

長内:

いやそこはジーマンに「スキンヘッド赤ローション分泌JK」って言われたから目が醒めたわ。

毒島:

なりたかったのかよ。

長内:

カバにはカバの悩みがあんだな〜って、したらウチも人間のまま頑張ろう!って。「隣の芝はパない」ってやつ!

毒島:

「青い」な、ニュアンスはちょっと通じるのが腹たつ。で、人間の長内は何を悩んでんの?

長内:

先週末にさ、タケちゃんが宿題出したじゃん?作文してこいってやつ。

毒島:

あぁ、テーマは自由で原稿用紙一枚以上〜のあれか。タケちゃんいつも宿題出すわりに内容が投げやりだよな。

長内:

当たり外れあるよね〜タケちゃんの宿題。前回の「知らない読み方の漢字を5個探してこい」はメッチャ楽しかった〜。

「御御御付け」知った時10分は笑ったかんね。


毒島:

お前って得な性格してるよな。

長内:

でも今回はウチ的にハズレなんだよな〜!

毒島:

テーマが広すぎて逆にわからんとか?

長内:

そもそも作文が向いてないんだって〜!0から1を生み出す苦痛マジやばたにえん!

毒島:

現文の宿題によくそんなスランプ中の作家みたいなテンション出せるな。

長内:

でもそこはクリアしたわけ!テーマは自由なんだから完全オリジナルじゃなくてもいいじゃんって!

毒島:

あぁ、読書感想文とかにしたのか?

長内:

読書感想文はトラウマあっから無理!ジュマンジも覚えてるっしょ?小3の夏休みの宿題ー!

毒島:

スーパーのチラシで感想文書いてきたあれか。俺は好きだったけどなー。
「きゅうりがこんなに安いのは、そうまでしないと買ってもらえないからだと思いました。」

長内:

原稿用紙一枚埋めるのに何で本一冊読まなきゃいけないわけ!?結局再提出くらったし!!

毒島:

(溜息)……で、結局テーマは何にしたんだ?

長内:

お?聞いちゃいます?そこ聞いちゃいますかお兄さん?

毒島:

ダル絡みやめろ、はっ倒すぞ。

長内:

おっほん!……テーマは、「リメイク」です!!

毒島:

その心は?

長内:

0から1は無理だけど、昔話を今風に変えるだけならイケるっしょ!って思ったの!

毒島:

まぁ、テーマは自由だしいいんじゃないか?原稿用紙何枚になるか分からんが。

長内:

そこはホラ!ウチ筆が乗ったら止まらないタイプだから!一枚以上書けるならそれはそれでOK!

毒島:

作文向いてないって言うやつのセリフか?

長内:

でね!オモテに出すにはやっぱパブリックドメインから選ばないといけないよねってなってー。

毒島:

現文の宿題の話だよな?

長内:

クラスに発表するんだからそこはもうオモテっしょ。むしろ社会の縮図?

毒島:

……いちいちツッコんでるから話が進まないんだな。もう全てを受け入れよう。

長内:

どうせならみんなに原作との違いを楽しんで欲しいから、誰もが知ってる有名なやつにしました!

毒島:

長内にしてはマトモな思考だな、何にしたんだ?

長内:

かぐや姫!

毒島:

竹取物語か、確かにみんな知ってるな。

長内:

でしょでしょー!そんで書き出したはいいんだけどさ、ちょっと今詰まってて……

毒島:

なるほど、やっと本題か。でも……

(HR開始のチャイムが鳴る)

毒島:

時間切れだな。

 

長内:

ガチじゃん!ジーマーミ使えねー!

毒島:

はっ倒すぞ。


場面転換(昼休み)

長内:

蕁麻疹〜、朝の宿題の話なんだけどさ〜。

毒島:

流石に蕁麻疹はスルーできん。

長内:

あ、やっとあだ名が変わりまくってることに気付いた感じ?

毒島:

ジーマー、ジママ、ジーマン、ジュマンジ、ジーマーミまでは我慢したんだけどな。

長内:

全部覚えてるの草なんだけど。

毒島:

蕁麻疹て、もういっそ新手の挨拶かと思ったわ。

長内:

いーんじゃん?朝の挨拶それにする?

毒島:

しねーわ。挨拶決めかねてたみたいな感じで乗ってくんな。

次に変なあだ名で呼んだら相談乗ってやらんからな。

長内:

りょ!自然薯!

毒島:

じゃあな。

長内:

わー!嘘ウソごめんー!フリかな?って思ったら口が勝手にー!

毒島:

どっちにしろこれからメシなんだよ、後にしてくれ。

長内:

食べながらでもいいからさ〜。あ、お昼奢るよ!今日も学食でしょ?

毒島:

お、それは普通にありがたいな。

長内:

交渉成立!んじゃ学食行こ!

場面転換(学食)

長内:

どれにする?ソーセージマルメターノでいい?

毒島:

いいわけねーだろ。

長内:

え!スージーってソーセージ狂いでしょ?

毒島:

お前の中の俺どうなってんの?

長内:

だって、毎朝コンビニでソーセージパン買って食べてるじゃん。

月火水木金、ずっとそればっか。

毒島:

あれは朝飯にちょうどいいんだよ。重すぎず軽すぎない、ベストブレックファースト。

長内:

毎日食べたいほど好きなんでしょ?


毒島:

朝から何買うか悩むのが面倒なだけだ。

新商品は入れ替わり激しいから、好きなやつ見つけてもすぐ売られなくなるし。

 

長内:

ペットロスを恐れてペット飼えないタイプだね。


毒島:

とにかく、直径30cmのペロキャンみたいなソーセージはお断りだ。

 

長内:

スジマ〜、あのコンビニで「ソーセージ太郎」ってあだ名ついてるよ。

毒島:

俺はAランチセットでいいから…………
………は?

長内:

Aランチセットね〜、ウチは豚骨ラーメンにしよっかな〜。

毒島:

おい待てお前いまなんて言った。


長内:

あ、ソーセージ太郎は味噌派だっけ?

毒島:

嘘だよな?ランダムあだ名製造機のお前が今考えた嘘だよな?


長内:

食券買ってくるから先並んどいて〜。

毒島:

おい、キャッチボール。あだ名関係を全部スルーすんな。

場面転換(食券を買って並んでいる)

長内:

お待たせ〜、はい食券。

毒島:

サンキュ……じゃなくてさっきのあだ名。

長内:

あ〜、ほら。隣のクラスのタガちゃんがさ、夕方あそこのコンビニでバイトしてるじゃん?

毒島:

あぁ、夏でも絶対に長袖しか着ない【鉄壁のタガ】か。そういや何度か見かけたな。

長内:

そ。んで、店長たちがお客さんにあだ名つけてるってのをタガちゃんが聞いたんだって。

毒島:

……モウアノコンビニイカナイ。(もうあのコンビニ行かない)

長内:

気にしすぎだって〜、「ソーセージ太郎」なんてまだ可愛い方らしいよ?

毒島:

ニンゲンハミニクイ、アラソイハナニモウマナイ。(人間は醜い、争いは何も産まない)

長内:

あ、おばちゃん!ニンニクマシマシでヨロー!

毒島:

……他の人はなんて呼ばれてんの?

長内:

おばちゃんサンキュー!今日も美人だね〜!

他?確か……毎回支払いにピン札の一万円出してくるホストっぽいクレーマーは「ヤク売師」で。
毎回列に横入りするおばちゃんは、釣り銭の小銭を絶対募金してくから「ボキンちゃん」とか!

毒島:

潰れてしまえあんなコンビニ。席、ここ空いてるぞ。

長内:

態度悪いお客さんへの腹いせだし、それくらい大目に見てあげなって〜。いただきまーす。

毒島:

いただきます……俺は別に態度悪くないぞ。

 

長内:

ジマリオンは顔が怖いから可愛いあだ名つけて緩和してるんだってさ。顔も可愛いのにね。

毒島:

クソ……今度から俺も店員にあだ名つけてやる……。

長内:

争いは何も産まないんじゃなかったの?

毒島:

先にふっかけてきたのはアッチだろ。

長内:

戦争ってこうやって大きくなるんだよね〜。

まぁ、ウチは同盟国だし、良いあだ名が思いつかなったら相談し……あぁー!!


毒島:

どうした同盟国、敵襲か?

長内:

相談だよ相談!また忘れるところだった!!

毒島:

作文の宿題な、ちゃんと思い出せて偉いじゃないか。

長内:

でも原稿用紙教室に置いてきちゃった!!

 

毒島:

ラーメン食いながらやるつもりだったのか。

長内:

シクった〜……放課後は絶対付き合ってよね!

毒島:

へいへい。

場面転換(放課後教室)

毒島:

で?俺は何をすればいいんだ?

長内:

とりま書いてきたとこまで読むから、気になるトコあったら言って!

 

毒島:

了解。

長内:

あと今後の展開をどうすべきかアドバイスして!

 

毒島:

アドバイスねぇ……。まぁ、昼飯馳走になったし、ベストは尽くしてやる。

えーっと、原作の出だしは確か「今は昔、竹取の翁といふもの〜」ってじいさんの紹介から入るんだよな。

長内:

そそ!さすが現文評価5の男!

毒島:

褒めるタイミング雑だぞ。んなもん誰でも知ってるだろ。


長内:

そんじゃ、序盤は導入だしサラッと読むわ。

毒島:

あぁ……。

長内:

「時は戦国、タゲ取りの翁といふものありけり。」


毒島:

ストップ。

長内:

一行目か〜。

 

毒島:

正直フラグしかないとは思ってた。

 

毒島:

(ため息)……何の翁だって?

 

長内:

タゲ取り。

 

毒島:

時代は?

 

長内:

戦国。

 

毒島:

昼飯全部吐くからこの話は無かったことにしてくれ。

 

長内:

なんで!?可愛いじゃんタゲ取りの翁〜!

 

毒島:

可愛い可愛くないの評価はこの件に微塵も関わってこないしタゲ取りの翁は可愛くない。

 

長内:

翁のこと何にも知らないくせに!

 

毒島:

腹立つ〜〜〜。

 

長内:

翁はね!「ターゲット取り」っていう敵の注意を一身に集めて、味方が有利になる状況を作るとっても危ない仕事をして生計を立ててるんだよ!?

毒島:

おいやめろ、タゲ取りの翁のことを教えるんじゃない。

 

長内:

「ワシにできるのはこれくらいじゃから」って、老体で敵陣に突っ込んでいくから、生傷も絶えなくて……。

 

毒島:

バックボーン作り込みすぎじゃないか?

 

長内:

おばあさんも毎回見送る時は涙を堪えて送り出してるんだよ……。

 

毒島:

わかった、いい。もうタゲ取りの翁でいいから先に進んでくれ。

 

長内:

よしっ!(ガッツポーズ)
え〜っと、続きは……「翁は山へ雑魚狩りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。」

 

毒島:

ストップ。

 

長内:

また!?話進まないんですけど!

 

毒島:

誰のせいだ誰の。

……混じってないか?

 

長内:

二人とも純日本人だよ?

 

毒島:

血統じゃねぇよ。展開が、別の昔話と混ざってないか?

 

長内:

別?そうなの?ウチ竹取物語って最初の一行しか知らないんだけど。

 

毒島:

……ん?

 

長内:

うん?

 

毒島:

「最初の一行しか知らないんだけど?」


長内:

あ、その後竹からかぐや姫が生まれて月に帰るのは何となく知ってるよ!

 

毒島:

おぉん……?え……?竹取物語を今風?にリメイクしてきたんだよな?

 

長内:

そだよ〜。まぁ大筋しか知らないけど、どうせ変えちゃうんだし読まなくてもイケっかなって。

 

毒島:

……(深呼吸して、自分の頬を叩く)

よし、覚悟はできた。次行くぞ。

長内:


なんかよくわかんないけど、じゃあ次ね〜!
「洗濯をした帰り道。おばあさんがふと目をやると、コインロッカーの一つが薄明かりを放っていることに気がつきました。」


毒島:

あぁすまん覚悟足りてなかったストップストップ。

 

長内:

またー?いいかげんかぐや姫登場させたげてよ。


毒島:

つい謝っちまったがこれ俺が悪いのか?翁そっちのけで婆さんがタイムスリップしてたら一時停止もしたくなるだろ。

 

長内:

してないけど、タイムスリップ。

 

毒島:

あぁ?

 

長内:

最初から令和の話だよ?

 

毒島:

どういうことだよ。お前さっき「時は戦国」って……

 

長内:

そう、「時は戦国」これは間違いじゃない。

 

毒島:

だったら……

 

長内:

時は、eスポーツ戦国時代!企業がeスポーツのチームを抱え、eスポーツの学校が創立されるこの現代。
市場も成長の一途を辿る中、プレイヤーたちがシノギを削って戦い合う様はまさに戦国時代!

 

毒島:

つまり?

 

長内:

「タゲ取りの翁」が言いたかっただけ。

 

毒島:

体に生傷絶えない〜って設定は?

 

長内:

翁がプレイしてるゲームキャラの話。

 

毒島:

今が戦国時代なら俺がお前を討ち取っても文句はないよな?

 

長内:

eスポーツ!eスポーツ戦国時代だから!リアルスプラッタは勘弁して!

 

毒島:

(深いため息)……で、時代は令和で良いとして。婆さんは川へ洗濯にって、ガンジス川でも行ってたのか?

 

長内:

んや?江戸川橋。

 

毒島:

神田川は洗濯禁止だぞ。

 

長内:

じゃなくて、おばあさんは命の洗濯に行ってたの。

 

毒島:

なんて?

 

長内:

命の、洗濯。

 

毒島:

……いや沐浴もキツいだろ。

 

長内:

チガくて、川柳サークルに行ってたの。

 

毒島:

川柳サークル。

 

長内:

そ、趣味の川柳サークルで句を詠むのが、おばあさんの唯一の楽しみなの。

 

毒島:

川柳サークルを川ってお前……。

 

長内:

フッ……ミスリード、ってやつよ。

 

毒島:

腹立つ〜〜〜〜〜〜。その顔やめろ。
あとお前のは叙述トリックじゃなくて単なる説明不足だからな。

 

長内:

細かいことはいーの!じゃあ次行くよ?

 

毒島:

はぁ……分かった、俺はもう止めないからどこまでも行ってくれ。相槌程度にツッコむだけにする。

 

長内:

「不審に思いつつおばあさんは近付いてみると、光っているロッカーは利用可能……鍵がかかっていない状態でした。」

 

毒島:

この先の展開を考えると軽くホラーだな。


長内:

「どうしても中身が気になってしまうおばあさん。意を決してロッカーの扉を開きます。」

 

毒島:

フリもそれっぽい。

 

長内:

「なんと、ロッカーの中には産着に包まれた、光る赤ん坊が寝かされていました。」

 

毒島:

都会の闇を描く作品になりつつあるな。赤ん坊光ってるけど。

 

長内:

「大層たまげたおばあさんは、心を落ち着かせるために一句詠むことにしました。」

 

毒島:

おばあさん?


長内:

「まじウケる 草生えすぎて もはや森」

 

毒島:

おばあさん?

 

長内:

「おばあさんはインカメでロッカーの赤ん坊とツーショットを撮り、読んだ句を添えてストーリーにアップしました。」

 

毒島:

スマホ使いこなしてないで通報しろ。

 

長内:

「ストーリーは炎上しました」

 

毒島:

それみたことか。


長内:

「おばあさんは赤子を連れて帰り、翁に見せて言いました。この子はきっと、子供のいない私たちに天が授けてくれた贈り物よ。」

 

毒島:

人攫いだぞババァ。警察も何してんだ。

 

長内:

「翁も嬉しそうに頷いて言いました。この世界に警察はいません。」

 

毒島:

お前今付け足しただろその行。翁に急なメタ発言させんな。

 

長内:

「こうしてコインロッカーベビーはかぐやと名付けられ、老夫婦の娘として大切に育てられました。」

 

毒島:

その呼び方やめろ、また都会の闇にフォーカスが向くだろ。

 

長内:

「お婆さんは炎上したアカウントをかぐやの成長記録垢にしました。」

 

毒島:

無法地帯がとどまる所を知らない。

 

長内:

って感じなんだけどさ〜。

 

毒島:

あぁ良かった止まった。下りしか無いジェットコースターみたいだった。

 

長内:

かぐやが拾われてから月に帰るまでの展開を知らないから、ちょっと筆が止まっちゃってて。

 

毒島:

「どうせ変えるんだし大筋しか知らなくてもイケる」って誰が言ってたんだっけ?

 

長内:

大筋どころか空白の歴史があったからさ〜。成長から帰還までの間に何かあるでしょ?

 

毒島:

まったく……確か成長したかぐや姫の美しさが噂になって、それを聞いた5人の男が求婚するも、かぐや姫が無理難題を押し

付けるんじゃなかったか。

 

長内:

ガチで?やるじゃんかぐや!魔性の女〜。

 

毒島:

その後に帝からも求愛されて、最初は断りつつもやり取りする内にいい感じになって、そのタイミングで月から迎えが来るとかだったはず。

 

長内:

切ない系ラブロマンスの要素もあるとかアゲなんだけど。

 

毒島:

だいたいそんな話だったと思うぞ。結構長くなりそうだけど大丈夫か?

 

長内:

そっかぁ〜、サンキューブジマ!
まぁ原稿用紙一枚以上のノルマはもうクリアしたし、中弛みしない感じで端折ろうかな〜。飽きてきたし。

 

毒島:

おい、最後に本音がまろび出てるぞ。

 

長内:

アドバイスありがと!帰ったら続きを書き上げて、明日の授業で名作を発表するわ!

 

毒島:

おう。迷作の発表楽しみにしてるわ。

 

長内:

まっかせて!じゃねー!

 

長内:

(遠くから)あ、あとブルジョワ今日ずっと鼻毛出てたよー!

 

毒島:

それ教えるの絶対今じゃないしこの距離で伝えるやつじゃないからなー。


場面転換(次の日の授業)

毒島:

(タケちゃん先生)

よくできてたぞ江森ー。雑誌のコラム顔負けの映画レビューだったな。先生帰ったら絶対サブスクで見るわ。

じゃあ次、長内ー。前に出て発表してくれー。

長内:

はいはーい!ウチは昔話の竹取物語を、現代風にリメイクしてきました!

あ、カメラOKだから、みんなバンバン撮って拡散してね!

 

毒島:

(タケちゃん先生)

ライブじゃないぞー。別にいいけど、撮る以外は禁止だからなー。

 

長内:

じゃあ読みまーす!
「タゲ取り物語〜異世界転生するはずが、地球に生まれてトップ配信者になった件について〜」

 

毒島:

ラノベ風タイトルついてる。

 

長内:

「時は戦国、タゲ取りの翁といふものありけり。」

「翁は山へ雑魚狩りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。」
「おばあさんが川で洗濯をした帰り道。ふと目をやると、コインロッカーの一つが薄明かりを放っていることに気がつきました。」
「不審に思いつつおばあさんが近付いてみると、光っているロッカーは利用可能……鍵がかかっていない状態でした。」
「どうしても中身が気になってしまうおばあさん。意を決してロッカーの扉を開きます。」
「なんと、ロッカーの中には産着に包まれた、光る赤ん坊が寝かされていました。」
「大層たまげたおばあさんは、心を落ち着かせるために一句詠むことにしました。」
「まじウケる 草生えすぎて もはや森」
「おばあさんはインカメでロッカーの赤ん坊とツーショットを撮り、読んだ句を添えてストーリーにアップしました。」
「ストーリーは炎上しました」
「おばあさんは赤子を連れて帰り、翁に見せて言いました。この子はきっと、子供のいない私たちに天が授けてくれた贈り物よ。」
「翁も嬉しそうに頷いて言いました。この世界に警察はいません。」
「こうしてコインロッカーベビーはかぐやと名付けられ、老夫婦の娘として大切に育てられました。」
「お婆さんは炎上したアカウントをかぐやの成長記録垢にしました。」
「かぐやは不思議な女の子で、異常な速さでスクスクと育ち、あっという間に大人の女性へと姿を変えたのでした。」
「加工アプリが不要なほど美しく育ったかぐやの成長記録垢は、JKや大きいお友達から大層な人気を得ていました。」
「そのうちかぐやは配信を始め、今や若者で知らない者はいない程のトップライバーとなっていました。」
「そんなかぐやに、翁とおばあさんは言いました。」
「わしらは生い先短い老いぼれじゃ、せめてかぐやが成人するまでと思っておったがこんなに早く育つとは。」
「ここまで来たら欲が出てしまった、かぐやの花嫁姿と孫の顔も見てみたい。」
「かぐやは結婚相手募集企画を発足し、配信することに決めました。」
「下民ども 我からすれば 貴様らの 顔なぞ全て 月の地表ぞ」
「かぐやはおばあさんの趣味の影響を強く受けており、五七五・七七でしか喋れませんでした。」
「かくして総応募数2億の中から抽選で選ばれた五人の男とお見合いをするかぐや。」
「鉄壁のタガ、ヤク売師、ボキンちゃんとのお見合いを終えた後に事件は起こります。」
「かぐやは四人目のソーセージ太郎が持ってきた、お土産のソーセージマルメターノに足を滑らせてしまいます。」
「後頭部を強く打ったかぐやに前世の記憶が蘇ります。」
「何とかぐやは地球に住む人間ではなく、月からきた宇宙人でした。」
「月に住んでいた頃に大罪を犯し、罰として異世界へ転生させられるはずでしたが、役所の手違いで同じ太陽系である地球に転生していたのでした。」
「前世の記憶を取り戻したかぐやは企画を中止します。宇宙人のかぐやは人間との間に子供を授かれないのです。」
「じじいばばあ 我は契りを 果たす故 稼ぎを使い 月へ飛ぶなり」

「かぐやは二人に孫の顔を見せるため、今までの稼ぎを全て使い、月へと向かうのでした。」
「第一部〜完〜」

 

毒島:

続くのォ!?

Fin
 

​おみおつ

​じんましん

​じねんじょ

​ばいし

​じょじゅつ

​うぶぎ

​なかだる

​はしょ

​みかど

​もくよく

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